Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

1984 ブルック・シールズ

Kくんは身長が180と少しあって欧米人のようながっしりとした体形で、しかも古き良き時代のコカ・コーラのCMに出てくるモデルのような絵にかいたようなハンサムさんだった。

当時はブルックシールズが美女の代名詞みたいにいわれていたけど、ブルックシールズと並んで立っても、ブルックシールズがアクセサリーになるんじゃないかと思うくらいのイイオトコだった。

おまけに純粋無垢で無口で優しい人付き合いのいい性格で、つまり同性にもモテる非の打ちどころのないイイオトコだった。重ねていうくらいのイイオトコ。

通学の電車でも毎日のように女子高生にラブレターを渡され、週に一回くらいはいい匂いのする大人の女性に抱きつかれたりして、つまり僕とは全く違う世界を生きていた。同性愛という意味とはちょっと違うと思うんだけど、Kくんのことを好きになる同性も珍しくなかった。

Kくんと並んで歩くと、自分のみすぼらしさがより引き立つようで辛かったんだけど、実際にはまわりの女性の視線はKくんに釘づけだったから、僕のみすぼらしい存在すら否定されていたのだけど。

合宿があるとKくんは、飲み会で女子の先輩の部屋に引きづりこまれて押し倒されたりもしていて、Kくんの貞操をみんなで心配していた。

双頭の毒蛇の餌食にならないように。

 

神様は生まれつき人間を不公平につくるというけど、いくらなんでもKくんには与えすぎだよ、と思っていた。

でもみんなKくんのことが好きだったから、飢えた獣の餌食にならないように気をつけていた。Kくんのレベルが高すぎて、つまり我々凡人とのギャップが大きすぎて、おこぼれにすら授かれなかったというのに。

そんなある年の夏休みに、Kくんはお盆休みが始まろうとする、夏の暑い日の夕暮れに飛行機事故で死んでしまった。痕跡すら残さずに。彼らしい。

 

神様は意地悪だった。いや公平だったのだろうか。