Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

断食芸人は「自分に合った食べ物を見つけることができなかった」と息絶えた

 

ずいぶん前に通りすがりの7-11のゴミ箱にプライドを捨てた。

私的なゴミを持ち込んだのは悪いとは思っている。でもそのおかげで今でも何とかやっていけているし、毎日のようにnanacoカードで買い物しているから許してもらいたい。

 

fujipon.hatenablog.com

 

大学を辞めた。死ねない呪いと向き合う毎日。

そんな三田くん(仮名)をfujiponさんが案じている。

 

気持ちは分かる。確かに社会は悪い。けどやれ社会が悪いだのADHDだの嘆いて..

そして赤門くん(仮名)は三田くんと同年代で、三田くんと似たようなバスに乗り目的地は近い。気の進まないままチケットを手に入れた就職という次のバスは、立派な見栄えのいいバスだが、同乗者もドライバーも目的地はどう見てもミスマッチで今から憂鬱でしかたない。

赤門くんは、バスを途中下車してトボトボと歩いている三田くんにいう。

 

残された奨学金だけは懸念材料だけれど、自分の置かれた状況を認識し、プライドを捨てて行動すればやり直しは不可能ではないと思う。ぜひ好きなことをして幸せになれるよう祈っています

 

そう、今すぐにザーメンハウスのゴミ箱に、イカ臭いティッシュと一緒にプライドも捨てるべきだ。

でもできまい。

 

三田くんはこんなことを言っている。

自分としては本命の国公立ではなかった。本命東工大数学1問分で落ちた。

 

これはある程度勝ち負けを経験してきたものなら分かるだろうけど、あと一問で負け続けたヤツなんてごまんといる。数学1問分で落ちたという甘美な慰めと言い訳は毒にしかならない。

 

赤門くんから三田くんに対するアドバイスとしてこんなものがある。

 

①: 自分の置かれた状況を認識する。まずはプライドを完全に捨てる。

今のあなたは、社会不適合者であり引きこもりニートであり、4年も年を食ってしまった高卒である。厳しい言い方だが、その現実直視してプライドを捨て去ることで、自分に合った道を模索する必要がある。

②: 大学に入り直すことや資格取得を目指す

知り合いでも同じように大学を3留中退→1年の浪人生活の後某有名私大に行った人がいるが、意外と就職も何とかなっているようだ。時間はあるのだから難関資格の一つでも取れれば大きくチャンスは拡がるはず。やり直しはいくらでもできるはずだ。

③: 自分長所や熱中できることを見つける

とは言っても本当に社会生活が向いてないのかもしれないし、仮に②ができてもそれが自分に合わなければ今回の二の轍を踏みかねない。

①で述べたように、まずはプライド世間体を一切考えずに、自分の好きなことや熱中できることを探してみてはどうだろうか。ものによってはフリーランスででも食べていけるかもしれないし、会社勤めしたとしても好きなことなら続きやすいだろう。

④: ①、②、③もダメで、親でもナマポでも奨学金でも利用できるものは利用し尽くして、それでもダメならその時死ぬことを考える

 

大学に入り直すことや資格取得を目指す

 

赤門くんは、自分を知り御して乗り越えてきただけに的確である。

だが、三田くんは①も②も③も無理だろう。あてもないままバスを途中下車して、ヒッチハイクする執着もなく、峠の無料休憩所に居座ってしまった。

 

僕の同級生の友人御茶ノ水くんは、三田くんと同じような状況に陥り、プライドを捨てられないまま拗らせて、自分に合った生き方を見つけることができないまま50歳を迎えてしまった。

40くらいまではそれでも、持ち前のIQの高さと学歴で派遣仕事で食いつないできたが、どれも契約切れでバスを下ろされ、40越えるとチケットすら手に入れられなくなった。プライドの高さと偏狭な性格が災いしてきたのは明白だ。面倒な乗客としてバスを下ろされたのだ。

御茶ノ水くんは、40越えてからは資格取得をし職を得ようとしている。だが、資格で食えるような仕事こそ社会性やコネが要求され、チケット売り場に永遠に並び続けることになる。

御茶ノ水くんは幸か不幸か、親元にいて衣食住には困っていないし、遺産で何とかもなるのだろう。だが社会を恨みネトウヨ思考に傾倒し引きこもる御茶の水くんを、おせっかいな友人として見ていられない。御茶ノ水くんは飲みに誘えば3回に1回ぐらいは応じるし、おっぱいパブでは楽しそうだった。

戸塚ヨット式ではあるのだが、御茶ノ水くんを穴から引きづり出してフィジカルから人間を変えるべく、僕の関連する会社で現在チャレンジしてもらっている。

最初は意欲的で頑張っていたし周囲も大目にみてくれるから何とかやってきたが、一年経った今状況が芳しくない。うまく出来ない引け目とプライドから彼は頑張らなくなってしまった。寛容な会社だから能力が足りなくてもプッシュする姿勢を見せれば評価してくれる。だが頑張れないものには次第に周囲も諦めで厳しく当たるようになり、序列の低い仕事に回される。予想はしていたが、仕事自体は彼に合っているようだ。でも逃げ続けてきたツケが回っているようだ。

傲慢な言い方かもしれないが、社会復帰する最後のチャンスである。頑張ってもらいたいから、最近は密にケアして裏から操っている。

 

三田くん。

あっという間に時間は経ち御茶ノ水くんになってしまうから、環境を無理やり変えるしかないと思う。

とはいえ自分で環境を変えるのは無理だろうから、無理やり自分を変えてくれるような環境にダイブするか、無理やり自分を変えてくれるような人に出会える場所を目指すべきなのでは。

本当に死にたいのなら、とにかく巣を出て飯場に身投げして人間改造してみてもいいと思う。

 

以前にも取り上げたが、フランツカフカの「断食芸人」という短編がある。

 

断食芸はかつては人気の芸だった。断食芸に対して町中が沸き立ち、断食が続くにつれ、断食芸を間近で見るために席を予約するものまで現れたほどだった。断食芸人は格子の付いた檻の中に入り、敷き詰めたの上に座ってじっとしている。檻の中には他に時計が置かれているばかりである。断食芸人は時おり水で口を湿らす他は何も口にせず、また人目に隠れて物を食べないようにと常時見張りが付いている。芸に対して誇りを持っている断食芸人は、見張りが厳しければ厳しいほど喜んだ。興行は決められた日数である40日間続けられ、それが終われば音楽とともに人々の間に出迎えられる。しかし断食芸人は、40日で断食をやめなければならないことに不満であった。

今では断食芸の人気はすっかり衰え、断食芸人は相棒の興行主と別れてサーカス一座と契約を結ばなければならなくなった。断食芸人の檻は動物小屋とともに並べられるが、珍しい動物を見にやってきた人々は断食芸人に興味を示さない。断食芸人はすっかり忘れ去られてしまうが、今や自分が望むだけの断食を続けることができた。ある日、監督が断食芸人の檻に気が付いた。藁屑を掻き出すと、断食芸人がまだ断食を続けている。問いかける監督に対して、断食芸人は「自分に合った食べ物を見つけることができなかった」と述べ、息絶える。断食芸人が片付けられると、その檻には生命力に溢れた豹が入れられた。

 

断食芸人のような生き方もあるだろう。それがいまの三田くんや御茶ノ水くんの姿だ。

 

やったらええやん - Toujours beaucoup