「君の名は」 On the Road 旅の終わりに
夏の通り雨が運んでくる匂いは郷愁にも似ていて、あっという間に遠い過去へ時間旅行できることがある。
娘と映画「君の名は」を観てきた。
アニメ、セカイ系、ロキノン系、ギターとおそらく夢を抱えた少年少女たち。
その世界観を正視できるのか不安だった。
目が覚めた女子高生の三葉が自分の異変に気がついた。手元にはおそらくiPhone4であるスマートフォンがある。3、4年ぐらい前の機種で時系列の鍵の存在に感じた。
主人公の立花瀧と宮水三葉が夢の中で入れ替わり、それぞれの多感な日常を駆け抜けていく。いわゆる男女入れ替わりストーリーもんだ。
「転校生」
まいったな・・・旧式の脳がPCの壊れかけのHDのようにカタカタと音を立てそうな勢いで反応しだした。
1982年の映画「転校生」は大林宜彦が産みだした、尾道の旧市街を舞台にした高校生男女入れ替わりストーリーでとても印象に残っている。尾道の旧市街の海峡と山に挟まれた光溢れ郷愁を誘う街は、旅情を深めるようにストーリーの色を深め、オープニングとエンディングだけ、モノクロ8ミリフィルムで表現していたのも、心の柔らかいところに響いた。
「転校生」は「オンザロード」と二本立てで、17歳の高校生の僕はイッコシタの女の子と、バイク好きな僕が「オンザロード」目当てで観に行ったのだった。
ところが「オンザロード」は秋川リサの濡れ場は我々には刺激が強すぎ、また何ひとつ人生を生きていない我々には「オンザロード」の世界観はさっぱり理解できなかった。
「オンザロード」は実は大きな情熱をもったタイトルで、ボブ・ディランの人生を決定づけたとも言われるアメリカの作家ジャック・ケルアックの「オンザロード」から由来しているのは、今となってはハッキリと分かる。2012年にはケルアックの「オンザロード」は映画化された。
1982「オンザロード」は評価としてはB級映画であるかもしれないが、反体制と正義を貫くためのロードムービーで正しくケルアックのオンザロードの精神を貫いていた。またゲリラ撮影で撮られたという荒唐無稽さが記憶に刻まれている。
On tha Road 旅の終わりに
↑ いつかレビューをリンクします。
だが当時はオマケで観た「転校生」が、多感でまだまだ純粋だった17歳の僕には強く印象を残し舞台の尾道の聖地巡礼の旅にもつながったのだ。
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そんなことを思い出しながら「君の名は」は始まった。
とにかく背景画が実写かと見紛うばかりに写実的で美しく、ヒロインの住む山間部のどこか懐かしい村を描いていた。湖、山、水力発電、祠、商店、学校そして光と闇。
「君の名は」のストーリーとともに、懐かしい記憶のロードムービーがパラレルで同時進行しだしたのだ。
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三葉の住む糸守町を遠くの山から俯瞰した映像が出てきた。その後の展開の鍵にもなってくる「組紐(組糸)」伝承の地で糸守湖の畔にある村で、これはビジュアル的には諏訪湖を、背景としては飛騨地方をオマージュしていることはすぐに分かった。
三葉の口咬酒を奉納した深山の果てにある火山湖は乗鞍岳の権現池であり、旅情あふれる高山本線や美しい飛騨の街はそのままに描かれていた。
権現池
そしての瀧の住む東京は、懐かしい四谷、新宿、渋谷、信濃町などの街並みや鉄道がくっきりと描かれていた。
しばらくすると気がついた。この映画は三葉と瀧の男女入れ替わりストーリーの本旨とは別に、パラレルで野山の美しくも陰鬱な地方都市から上京した若者が育っていき、人生を振り返るような歳になった時の郷愁を、ロードムービーのようにも描いている。
特に僕自身のログがあるような場所ばかりで、シンパシーを強く感じた。
ところで冒頭で三葉が使っていたiPhone4の3、4年前の時系列から、瀧のシーンでは瀧はiPhone5もしくはiPhone6が使われていて、ここ1、2年の時系列と混在していていた。実は瀧と三葉の間には3年という時間差があったのだった。
【三葉】三葉がどうしてもまだ見ぬ瀧にどうしても会いたくなり、飛騨古川駅から東京を目指すのだが、山手線の中で出会った瀧は三葉より年下の中学生だった。
【瀧】入れ替わりがなくなったために、三葉の村を俯瞰した絵だけを頼りに、瀧が三葉に会いに行くと三葉は3年前の隕石落下で村ごと死んでいた。
・ちなみに三葉と瀧は繰り返される入れ替わりと、お互いのスマホや紙にメッセージを残しあうことでお互いを認識しあうことが出来ていた。
・つまり三葉が死んだために入れ替わりが無くなったのだ。
iPhoneの仕様違いというタイムパラドックスはここで解決したのですね。
瀧は3年前に三葉が死んでしまっていたという現実に打ちのめされるが、奉納された口咬酒や、三葉が中学生の瀧に渡した組紐が、隠された時間の変数になっていきます。
そして・・・
ここから先のストーリーはもう書きません。
あの日の夜の祭りばやしや参道、そしてバス停から送電線にいたるまで・・・僕にとって「君の名は」は、遠い過去へのロードムービーのようで、それが17歳のデートで見た映画からジャック・ケルアックにつながる、終わらない夢のような心の旅ができたのは思わぬ収穫でした。
おまけにボブ・ディランがノーベル文学賞まで獲りやがった。ケルアックのおかげだぞ。
ノーベル文学賞2016 - Toujours beaucoup
娘は娘で純粋にファンタジーと世界観や音楽を楽しめたようです。
ふう・・・やっと書けたけど、なんかしっくりしない。