映画『3月のライオン』 青春の門
映画『3月のライオン』を観てきました。
単純明快に楽しめる映画で面白かったです。
娘と観に行ってきたのですが、『3月のライオン』というタイトルからは、将棋棋士の映画だとは想像もつきませんでした。娘は羽海野チカ原作のアニメを読んでいて面白いからと。
ストーリーについては、交通事故で孤児になった桐山零がプロ棋士家族に拾われて、男としてプロ棋士として悪戦苦闘しながら成長していく青春冒険物語です。
勝負の世界は冷酷がゆえに拾われた棋士家族が崩壊したり、出会った温かい家族にひと時の平安を見出したり。
でも映画上の演出で仕方ないのかもしれませんが、出てくるキャラが強烈な棋士たちがもう、揃いもそろってとにかく熱く成りすぎなのです。勝負事というのは熱くなると勝てません。勝機を逸するのです。特に将棋は沈着冷静で氷のようなハートでないと強くなれないような気がするのですが、一見クールな棋士でも星飛馬の瞳の中の炎のように燃えているです。
でもそれは、史上4人目の中学生プロとなり最年少で名人に就位し、史上初の7タイトル制覇を成し遂げた天才棋士宗谷冬司のキャラを引き立てるためなのかもしれません。超然とした雰囲気でどんな重要な対局でも表情一つ動かさない最強の名人なのです。
またこの映画で興味深かったのは、俳優たちの表情を色んな角度から、もう毛穴や肌荒れなどがくっきりと出るようなアップで撮るのです。なので佐々木蔵之介は意外と胸像の彫刻のような骨格をした顔なんだ、豊川悦治は血圧やばいんちゃうとか、伊藤英明はマッチョ志向でプロテイン飲む勢いじゃねとか、また女優さんたちの一見では見えないような色々な魅力が感じられました。
また映画の舞台となっているのが、僕の大好きな隅田川沿いの名橋を基軸とした下町が中心で、特に佃島など情緒あふれる歴史ある情景に引き込まれました。
ところで『3月のライオン』というとても印象的なタイトルとなっていますが、どういう意味なのかは、映画では感じ取ることができませんでした。エンドロールには日本語の『3月のライオン』に加えて英語のタイトルも併記されていました。
March comes in like a lion
ああ、外国の諺なんだ。勝負に飢えた若い棋士を春先の腹ペコのライオンに喩えてHungry Lion かとイメージしていました。
これじゃ教養がないのがモロバレですね。石原慎太郎さんに笑われちゃいます。
これはイギリスの「3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去る(March comes in like a lion and goes out like a lamb)」という諺から由来するようです。
荒々しい天気からしだいに穏やかになる3月の気候を表す諺を、羽海野チカは「物語が作れそうな言葉」だと感じていた様子です。
棋士界では昇級は6月、降級をかけた最終局は3月に行われるため、3月は棋士がライオンになるといい、苦しい道を歩いていく姿と棋士の戦う姿をライオンに投影しているようです。そういった意味で『3月のライオン』は物語を象徴するに相応しいタイトルになっていますね。
なお今作品は2部作で4月に公開される後編へ続きます。
涙を堪え飛び散る汗や血潮はありませんが、桐山零のみならず各人の内面の衝動や葛藤はかなり激しく、現代版『青春の門』なのでしょうか。
【参考】
羽海野チカ「3月のライオン」の名言が深い!タイトルに込められた意味は?
第287回:“March comes in like a lion.” ―「3月はライオンのようにやってくる」 (ことわざ): ジム佐伯のEnglish Maxims