Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

星の王子様

 知人のフランス旅行記でサンテグジュペリを思い出した。空港の名前にもなっている世界的に有名な作家で、広くは「星の王子様」で有名だ。またその自由奔放なサンテックスの人間性も興味深い。放蕩息子で女好きで金にだらしなくて、大言壮語癖がありそれを懲りずに何度もトライしたりしするどうしようもない男。いやそうじゃない、挫折と屈折が彼を変えたんだ。どっちでもいいか。簡単にいえばダメ人間。

 だけどこの「ダメ人間」という言葉は、愛すべきダメ人間という意味で、決して蔑んではない。その愛すべきダメ人間とはどうしようもない弱さを持った人間でもある。

 感情の入る一分の隙間もない一流のプロアスリート。彼らですら懸命に弱い自分を「無かったもの、始めから存在しないもの」と処理しているはず。我々凡人なんかいとも簡単に弱さという一種の快楽に犯されてしまう。

 「星の王子様」は子供向けの文学で子供たちには幻想的なイラストしか印象に残らないだろう。大人向けにはおとぎ話のようなもので、比喩、暗喩、揶揄するような表現を平易な文章に載せている。心の弱ったものには癒し。厳しく自己管理し張り詰めたテンションのポジティブ思考で毎日を送っている人には煩わしく感じるだろう。

 「私生活は紆余曲折だったようだけど、あんなに素敵なストーリーを描けるなんてすごいですね」一見そんな印象だけど、物事の上っ面で生きている人間には到底出来ない。サンテックスのダメ人間であるが故の弱さ、あるいは弱さゆえのダメ人格が、あの内省的で示唆に富んだ文章を産み出したのだろう。

 ちなみに僕は「飲んだくれの星」「仕分けする鉄道員」のくだりが好き。青空文庫でも読めるけど、翻訳は相当骨が折れるとみえ翻訳によって全くうける印象が違う。原文を自動翻訳すると、まるで文字化けしたかのよう。読者自身がイメージを創造しなければならない。

日本初翻訳の内藤 濯さんの元祖本と河野 万里子さん訳。
河野さん版が一番優しくて好きです。