友あり遠方より来す
免罪符
新規開店のラーメン屋さんに連れて行ってもらいました。
醤油ラーメン 780円
レジュメには
高級厳選無添加食材が基軸になっていることがアピールされている。
価格的にも特製(全部入り)に至っては1080円と、なかなか強気で高高度飛行のB29のようなアピールを感じた。
そして今迷っている。
実は記憶から消し去ろうと思った。人の商売の邪魔するつもりはないし、オープンしたてで大目にみてもいい。たが食後半日経ち、心の中の夕日に誓う午前3時に悟った。
「西部戦線異常なし」レマルク
ラーメン激戦区滋賀県、つまり西部戦線帰りとして伝えるべきだ。
お店は3連棟のステレオタイプの大東建託風テナントの真ん中。家賃は118000円基準で真ん中は安いから108000円とみた。小岩の街外れのような立地。
となりのスナックは先輩の行きつけで、何回か行ったし良いママだけど、それだけだ。
つまりランニングは安いけど出店は避けたいロケーション。駐車場も板門店のような配慮が必要だ。
だがこの世にはブレイクスルーという魔法の言葉がある。西部戦線にもとんでもないロケーションのお店も多かった。
お店に入ると食券を購入してくださいと。振り返ると卓上の小型券売機。
塩と醤油だけ。あとはトッピングの選択など。
ところでオープンして間もないのにお客さんは他にいない。地雷原に迷い込んだか。
スタッフは優しい駐車場係風の大将がキッチンの中。ホールに目の血走った年配の女性。
「注文の多い料理店」なのか。
1980円のCDプレーヤーからは、B'zが流れている。ラーメンにB'zはないだろう、でもそれは店のやり方だ。
でもB'zはないよ。
手持ちのカードは雲行きが悪い。奇跡の逆転はできるのか。
五分ほどでできてきた。
よく見かける底が狭くて深いどんぶり。
塹壕から見えた蝶にそっと手を伸ばすようにスープを一口。
ほのかにいろんな出汁が感じられて、貝汁のよう風味だ。でもとにかく「自信がない」そんな味ではっきりしない。
麺はなんだか玉になっている。これは底細りの丼のせいじゃないのか?また麺に対してスープが少ない。麺はシコシコした食感もあり悪くはないのだが、スープとの相性が悪く大味な印象だ。
レジュメでは麺についてだけは、なぜかスルーされている。
全体としては、頑張っているのはスゴく伝わってくるが、自信の無さというか、ラーメンとして確立されていない。
「頑張っているのはわかるが、これは500円だな」そう思った。
連れ添ってくれた人は
「540円ですね。40円は消費税分。なんだか、冴えない400のネイキッドバイクにブレンボ、マルケ、オーリンスなどの一流パーツを盛った感じですね(レジュメの厳選高級食材使用から)」
うん、まさにそんな感じ。
食後のデザートにカスピ海ヨーグルトをサービスしてくれた。ありがたい。
でもそれですっかりラーメンの余韻が消えてしまい、味がうまく思い出せない。
記憶から消し去ろうと思ったが、無化調高級素材ベースが免罪符になっているような最近の風潮が、お店のレベルを下げているようで報告せざるを得なかった。
ごちそうさまでした。
以上報告終わり
その日の西部戦線はいつになく静かだった。つかの間の静けさの塹壕の中、目の前に蝶が飛んできた。
蝶に向かって手を伸ばした。届かない。
頭が塹壕の外に出た瞬間に…
狙撃手に頭を撃ち抜かれた。つかの間の平和な1日。その死は本部には報告されなかった。
「西部戦線異常なし。報告おわり」
味 リベンジ編
大将不在時のあまりの戦力低下に愕然とした前回。
機は熟した。
西部戦線(滋賀県ラーメン最前線)から帰り、地元のラーメンの平和ボケに落胆していた。いっちょまえの値段と能書きなのに、記憶から消し去りたくなるような味。
ホームのお店でリスタートすべきだ。
お店をチラッと覗くと大将が最前線で一心不乱に動いている。
午前2時に店を閉めそのあと明け方まで仕込みをする。そのまま店のフロアに倒れこむこともあった。二階が住居スペースになっているのに。店を休んでの味を探求する旅回りも欠かさない。太り過ぎて医者にはこのままいくと死ぬと宣告された。実際一度死にかけて店をしばらく閉めたこともある。つまりラーメンに命を捧げた男。
これがこの店の顔だ。
「男ラーメン」中 全部マシマシ ニンニクだけ抜き。
・麺の量は中でニンニク以外全て大盛り
いつもの、つまりベンチマークだ。
前回わかりやすい表現で、二郎っぽい、としたが、これは手のかかったれっきとしたラーメンである。二郎はラーメンではなく二郎という食べ物である。
結論からいう。
至福の一杯だった。
意識が飛びそうなくらいに。
軽く完食できた。
作り手でこうも違うのものかと唸った。
おまけのネギ軟骨。
これはまさにとろけた軟骨が口の中を溶かすような旨さだ。
日本酒の熱燗もお猪口一杯サービスしてくれた。つまりお銚子とお猪口にもなみなみと注がれて出できた。
もう死んでもいい。
ごちそうさまでした。