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Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

踊る小人 村上春樹

 夢の中で小人が出てきて、僕に踊りませんかと言った。
 それが夢だという事はちゃんとわかっていたのだけれど

 「あの子をモノにしたかったら、僕をあんたの体中に入れると良い。あんたの踊りにあの子は夢中さ」
風や光や匂いや影や、あらゆるものが集まって、それが小人の中ではじける。そんな風に小人は踊る事ができる。

 小人はつむじ風のように踊った。

 「あんたは何度でも勝ち続ける事ができる。でも負けるのはたった一度だ。あんたが一度負けたら全ては終わる。そしてあんたはいつか必ず負ける」

 悪魔(小人)に魂を売ることにより、適わない望みを実現するようなストーリーだ。報いとして高いツケを払う羽目になる。

 小人の住む森は邪悪な存在を封じ込める場所だ。口減らしのために森に捨てられ、深い森に迷い込んだ子供たちは、疲労と恐怖でさまざまな幻覚を見る。そして暗闇には彼らを狙う獣の眼が光っている。
 グリム童話「白雪姫」では、王妃にとっての白雪姫はまさに憎悪すべき邪悪そのものだ。森に捨てられる白雪姫。そして森に住む七人の小人たち。
 ハンデキャップを持った人々。近代社会では彼らは居場所を設けられ、街角で見かける機会は少なくなってきた。良心的な隔離だ。偏見と憎悪が渦巻いていた旧い社会構造の街も情報伝達の進化で、都会と変わらない一見するとフェアな暮らしも可能だ。しかし現在の情報化社会の中での情報弱者は「情弱」と呼ばれ蔑視と哀れみを受ける。しかし考えてもらいたい。情弱は不幸でもないしマイノリティーでもない。精神薄弱者を精薄と表現し格差意識を持ち、不要な存在と位置づけることに等しい。

 「踊る小人」の中での小人は、人の内面の深層意識から溢れ出てくる灰汁(アク)のようなものを意味しているのではないか。残酷でタブーになっている風習や邪悪な存在を寓話化した童話を読んでいるかのようでもある。

 秀逸な短編のひとつだと思う。
 
螢・納屋を焼く・その他の短編」1984年新潮社発行

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