幸運貧乏
赤の金麦いかがですかー
赤の金麦いかがですかー
6本お買い上げでー
あと30分ですー
よく通るきれいなソプラノボイスが聴こえてきた。
みれば小柄でハッとするような綺麗な顔立ちの若い女性が、まるでお手本のようなきれいに背筋を伸ばした姿勢で、サントリーの「赤い金麦」の新発売キャンペーンをしている。
でも平日の夕刻の地方都市のスーパーには、ちょっとミスマッチなキャンペーンだし、ここでは売り子の彼女も少しオーバースペックのような気がする。
このような戦局ではグイグイと懐に飛び込んで行くような、歴戦の兵士が必要だ。
学校出たばかりなのに、地の果ての最前線に送り込まれた気の毒な青年将校のような彼女は、マッチ売りの少女のようでもある。
彼女の声は最前線の兵士たちには届かない。
よし
彼女の頑張りに一肌脱ごうじゃないか。
赤の金麦を買ってやろうじゃないか。
申し訳ないがいくら頑張っても発泡酒だから、そんなに飲みたいとは思わないが、彼女の奮闘に免じて、たまには発泡酒もいいじゃないか。
塹壕戦のように売り場を巡り、メントスを2本握りしめていた娘を探し当て、彼女の元に参じる。
キラキラの笑顔で迎えてくれた彼女は、完璧な商品説明とキャンペーン内容をプレゼンしてくれる。
6本お買い上げで引ける三角クジはもう一等と残念賞しかないという。
ヤバない?
勝てない勝負師の血が疼く。
一等は今治謹製綾織タオルだという。
残念賞はポケットウェットティッシュ。
三角クジの箱を覗くともう数枚しかない。
彼女頑張ったんだな。
立派な戦果だ。
ここで一等当てなきゃ男が廃る。だが僕は勝てない勝負師だしチャンスをピンチに変える男た。
そのために娘を連れてきたのだ。
依存心とか責任転嫁ともいう。
果たして…
娘はワンチャン決めた。
一等引いたし。
ブラボーブラボーブラビッシモ
素直にうれしいぞ。
ここで息子がくじ運強いの思い出した。
レースイベントのジャンケン大会に優勝したり、いきなり5000円拾ったり、奇跡の受験や就職成功とか美人の彼女とか。
もちろん本人の頑張りもあるのだが、とにかく引きが強い。
その話を娘にしたらやはり、あんなにいい加減なオトコなのに運だけは良くてムカつく、と。
そうだね
娘は幸運貧乏だ。
基本的に兄である息子譲りで引きは強い。
今日の一等もそうだ。
受験番号1番を引いたりする。
でもそれで運を無駄遣いしてしまったと思ってしまう。
失敗したと。
そんな者には勝機は訪れない。
僕がそうだから良くわかる。