神無月に花束を君に
風の強いあの日
重たく曇り空
お別れ 飛行場まで
アクセル踏んずけて
この先事故渋滞
電光掲示板はシンプルに情報を掲示している。
まずいぞ。
車では生まれて初めて路肩に入って走った。今日だけは許してくれ、フライトに間に合わないんだ。
でもそんなことは、渋滞の中でルールを守っている人には知ったことじゃない。車の列が乱れ始め事故現場が近いことを知らせた。車線に復帰しようにもなかなか入れてくれない。もう無理やり抉じ開けるしかない。
ずっと黙り込んでいた彼女が口を開いた。
「中途半端なのよ」
僕の割り込み方に迷いがあってブロックされていることを指しているのか、僕自身の人格についてなのか。
あるいは事故渋滞を不可抗力としてフライトをキャンセルするのが、正しい社会性を持った大人のやることなのかもしれない。
でもやるからには自分の責任において、這いつくばってでもベストを尽くすべきだと信じている。そうやって生きてきた。
事故現場には大蛇の断末魔のようなブラックマークが途切れた先に、三菱の4輪駆動車が派手に横転しているのが見えた。手前には毛布を掛けられた物体がひとつ路上に転がっている。最悪の状況を想定したスピードに抑えなかったことによる罰だ。悪いけど同情の余地はない。
ゲートが開くように渋滞から解放されて南無三で飛ばした。我々も毛布のお世話になるかもしれないが、生き方の問題だ。
デッドラインの50分前に高速を下りた。空港まではまだ30分ほど走る必要があるがもう大丈夫だ。
もう二度と会えない そんな気がしてさ
耳をふさいでいた こんな空に君は飛んでいく
彼女の乗るデルタのB747は時代遅れの轟音を響かせて、ゆっくりと機首を持ち上げて重たそうな機体を浮かせ小牧城の向こうの曇り空にあっというまに消えた。
彼女はそのネコを抱いたまま結婚して離婚した。
・・・・
あの頃は毎日がめちゃくちゃだった。楽しかった思い出なんてひとつも無かったとわたしが自分に長年言い聞かせてきたのは悲しい別れを思い出したくなかったからだった。
fridayusaoさんのこの語りはとても好き。
昔のお別れのことを思いだした。
あれから20年と少し、中途半端な僕のこの性格は出自のように一生背負っていくんだな。
夢はつまり 思い出のあとさき