ARROW 4
「おじさんはママのともだち?」
「ぼくは知ってるよ」
そう言いながら彼はビーチパラソルに意識を向けた。
そこにいたのはMだった。
まるで神の啓示を受けたような気分になった。
そして神の啓示によると少年は僕の子だとわかった。
そして神の啓示によると少年は僕の子だとわかった。
青い海、砂浜、ビーチパラソル、米軍機のジュラルミンに反射する夏の光。沖縄時代の少年の日々が瞬時にしてよみがえった。
僕はどこにいるのだ?
夏のにおい、海のにおい、彼女の涙は枯れてしまった。
「なにか冷たいものでも、麦茶でいいでしょ?」
「うん」
「なんで?」 なんて言葉は不要だろう。
濯はホテルの方へ駆けていった。
「今どこにいるの?」
「どこだっていいでしょ」
「うん」
「なんで?」 なんて言葉は不要だろう。
濯はホテルの方へ駆けていった。
「今どこにいるの?」
「どこだっていいでしょ」
そのとおりだった。
彼女は生い立ちは複雑だったが極めて常識人だったし極めて賢い。なぜ?どうやって?濯はどこから?
彼女は生い立ちは複雑だったが極めて常識人だったし極めて賢い。なぜ?どうやって?濯はどこから?
彼女の予測応答スキルはすごい。考えるだけで答えが返ってくる。
「あなたはわたしにとって特別な人だった」
彼女は二人の男性経験があった。
でもそれは、頑張って人並みに彼氏を作って、もしうまくいけば結婚して子供をもうけてと、義務感に応じた結果で、つらい経験をしただけだった。しかも聞いたところによると、有名私大の花形体育会系部活が好むような野獣系要求を含むお付き合いだったようで…全くもってミスマッチで、男を見る目がないというか…それに流されて染まっていく寛容さ、環境適応能力、つまりルーズさもない。持つ気もさらさらない。
「あなたはわたしにとって特別な人だった」
彼女は二人の男性経験があった。
でもそれは、頑張って人並みに彼氏を作って、もしうまくいけば結婚して子供をもうけてと、義務感に応じた結果で、つらい経験をしただけだった。しかも聞いたところによると、有名私大の花形体育会系部活が好むような野獣系要求を含むお付き合いだったようで…全くもってミスマッチで、男を見る目がないというか…それに流されて染まっていく寛容さ、環境適応能力、つまりルーズさもない。持つ気もさらさらない。
もちろんまともな男も彼女のそばにいたが、彼女は人生において重要な「偶然のきっかけや巡り合わせ」の運に欠けていた。しかもルックスが並じゃなかったのが逆ザヤになって、悪いカードを引く羽目になったのだろう。
ところでおまえはどうなんだ?
はい
顔はそれほど不細工じゃないと思う。
でもチビでもやし君。本を読むのは好きだし考えるのも好きで、文学的素養はあると思うけど、あまり頭は良くない。家柄や育ちも大したことはない。むしろ彼女にはおおよそ不相応だった。
ホンダにNR500というレーシングマシンがあった。
モーターレーシングで世界を制したホンダが80年代創世記に作った、まるで神様が創ったようなエンジンのおそろしく手間とお金のかかったレーシングマシンだった。作り手の情熱と執念が作り上げ、机上の計算では野望を実現できるはずだった。
レース専用に作られたレーシングマシンは実に純粋で美しい。一瞬の刹那のように輝く若い女の子でのようである。レーシングマシンにも一般的には基本セットというのがありそれをガイドラインにする。ところが基本セットすら出ていないマシン、例えばエンジニア理想を経済性を無視し形にしたレーシングマシンもある。
そして市販車改造のレーシングマシン、いわゆるプロダクションレーサー。親しみやすいし、身の丈に合わせやすい。でもプロダクションレーサーも磨けば磨くほど、どんどん素晴らしいマシンになる。でもどんなに追いかけても生粋のレーシングマシンには追いつけない。安パイの彼女みたいなもんだ。
NR500。美しく情熱が燃えたぎるそのマシンは、現場を全く考慮しない整備が困難な構造でメカニックを苦しめた。ライダーは、いつエンジンブローし自身のオイルで地獄を見るかもしれない恐怖に脅えた。
まるで彼女のようだ。
そして不世出の天才ライダーが現れた。その走りは神に支配されていた。NR500をエンジニアの理想のスピードで走らせた。つまりエクスタシーに導いた。もちろんNR500はあっという間に火を噴いて燃えつきた。
僕は不世出の天才ライダーではなかったけど、手に取るようにマシンが何を求めているかわかった。
僕は不世出の天才ライダーではなかったけど、手に取るようにマシンが何を求めているかわかった。
そして身を捧げた。