Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

立ち食いそばのレーゾンディートル

三河のうどん文化で育った僕にとっては、そばは「ザルそば」や「年越しそば」程度の認識しかなかった。ところが首都圏に進学して住むようになって、北半球と南半球の違いのような環境の変化に接する事になる。

三河地方は関西と関東の味が交じり合った独自の出し汁だ。やや濃い目の関西風がデフォルトだと思う。もちろんこれは後でわかった。

そんな中で「うどん」の地位は高く、デザートとしてメロンまで添えられた天婦羅定食や刺身定食など、立派なディナーとして機能し「うどん屋呑み」や「うどん屋会食」など、フォーマルなコミュニケーションの場にもなる。

 

ところが関東に行くと「そば」が「うどん」に取って代わる。「うどん屋」は「そば屋」として役目を果たす。

アウェイとして最初のコミットは駅の立ち食い蕎麦屋だ。

真っ黒な出し汁のそばは見た目通りの醤油辛さ。三河地区の標準のうどんの出し汁は、関西風の鰹やいりこ出汁風味が強くしょうゆ味は弱い。そばも同じような風味だ。

関東のそばには、正直あまり馴染めなかったのが本音だ。つまり本当のサッカーを知らないまま思い出ワールドカップで終わったアウェイと一緒だ。

 

そしてワールドカップ5回分ぐらいの時が経った。それでも歳が近い三浦カズはまだ現役である。三河地方に骨を埋めつつあるある日、地元駅の立ち食いそば屋に入った。そもそも三河なのにそば屋である。僕のフェイスブックにその時のレビューがある。

豊橋駅在来線改札内の立食い。
そばつゆが真っ黒な東京風で豊橋では珍しい、というか他に知らない。
基本的にこの辺りは関西風と関東風が汽水域のように交じり合った味わい。
静岡に入ると、そばつゆは次第に濃くなっていき、富士川を越えると50hzに切り替わるのに合わせるように、一気に濃くなる。
ところが、ここ壺屋のそばつゆは真っ黒である。冷戦時代の西ベルリンのように、そして東三河の保守的な味覚を嘲笑うかのような自己主張である。

券売機でかけそば310円を買い、カウンターのおばちゃんに手渡す。その瞬間におばちゃんは全てを支配し、丼にそばつゆを入れると、ロジの中の麺をサッと湯通しして、丼の中に潜らせる。そして刻み揚げ、かまぼこ、ネギを鮮やかな手捌きで散りばめる。そこに一切の隙はない。

だからトングに手を出した瞬間に「ネギ多め」と、流れを切らないように伝えるのはリスキービジネスである。

そばを受け取り、白い樹脂に赤いフタの容器の、一味だか七味だかわからいのを投網のように振りかけ、割り箸を口に咥えボジション取りをする。もちろん椅子はない。

麺は可もなく不可もなく、まあそうだろう。だがそばつゆの甘辛さが絶妙で、一味だか七味とパンチの利いたネギがまた刻み揚げと絡み合い絶品である。

食後もなんともいえない食感の余韻が残り最高だった。
ごちそうさまでした。

 2008年の全日本ロードレース最終戦の岡山での朝、突然煙草をやめられる事に気がつき、近年ではハーフマラソンにも出るようになり味覚が明らかに変わった。加齢もあるだろう。

いつの間にか、ちょっと苦手だった真っ黒で辛いそばが身体に沁み込むようになっていた。今は「うどん」よりも「そば」である。それも関東風の。

三浦カズもまさか50を目前にして現役でいるとは想像もつかなかっただろう。それと同じようにまさか僕も「そば」に恋するようになるとは想像もつかなかった。

 

 

 

これはまさに今の僕のためのガイドブックである。

学研ムック立ち食いそば名店100 首都圏編

◆めん、つゆ、天ぷらが三位一体で激しくうまい! 
~六文そば須田町店~

黄色い看板で知られる「六文そば」は、都心三区を中心に多店舗展開する人気店。
往年の江戸前立ち食いそばのイメージそのままを体現したような
「ゆで麺&黒いつゆ」を出してくれる、そば屋さんです。

つゆはその濃い色とは裏腹に塩辛くない味。
モチモチ食感の太麺をすすると、つゆのうまみが絶妙な濃度で口の中に広がり
そばをすする箸が止まらなくなります。
人気の天ぷらはゲソ天。
いかゲソ天そば(400円)のカリカリにあがった衣はつゆを吸っても崩れません!

 千代田区神田駿河台の学校に行っていたので近所の須田町は想像がつく。駅の知覚のジャンクフードの列挙をよそに、そば屋、中華、ワンコインでうまい天丼など、ジャンクフードオフィスと学生街ならではの隠された食の街。

 

◆究極の隠れ名店! ~日豊庵 霞が関

 

なんと、このお店の場所は農林水産省の中。

11:00~15:00の間は一般の私たちでも食べに行くことができます。
ただし12:00を過ぎると大混雑するので、可能なら12時前に入店したいところ。
そして農水省の庁舎内に出店するには、できる限り国産食材を使うことなどが条件としてあるそう。
なので、この「日豊庵」の食材の多くは国産で品質は折り紙つき!

そんな日豊庵の人気メニューのひとつとして
キャベツやもやしなどを軽く炒めて冷まし、それをそばにのせ、
かつお節のうまみが利いたもり汁をかけた「冷し野菜炒めそば」360円。
また、「もりそば」は210円という破格のお値段!

 これはずるい!

 

◆そば好きも浮気する、絶品メニュー! ~よもだそば日本橋店~

「チーズそば」「旬の山野草そば」など、多彩なメニューで
立ち食いそばファンに知られる人気店。
昼のピーク時は行列は当たり前!なので、時間に余裕がある時に訪れる方がオススメかもしれません。
そして、人気の理由はメニューの豊富さだけでなく
毎日製麺し、季節や温度によって微妙に麺の打ち方を変えたり…という、
そばへのこだわりにもあるのです。

そんな、よもだそばはカレーライスも実は名物!
かけつゆをベースにインドカレーのスパイス、トマトの酸味、
チキンのうまみを加えた本格派の味は、そば好きも浮気するおいしさ。
お値段も480円という、ワンコインで楽しめてしまいます。
常連さんは260円の半カレーにそばをセットで頼む人も多いのだとか。
おいしいそばと一緒に、絶品カレーも楽しめてしまう一石二鳥なお店です。

 これはどうなんだろう。

直球打ちとしては変化球に手を出したくない気持ちもある。