Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

板門店で赤ワインを

実家の近所に間に肉屋を挟んで床屋が二軒ある。

11歳の夏に沖縄から実家に引っ越してきた頃にはすでに二軒ともに存在していて、それから時を違わずして二軒ともにリニューアルした。ざっと40年前のことである。

同業者が50メートル以内に2軒あるなんて、まるで北朝鮮と韓国のようで干渉線にある肉屋は、板門店と同じでさぞかし居心地が悪かったのではないだろうか。

ちなみに便宜的に肉屋としたが、実際には現在では一晩一組だけのワインレストランになっている。たしか二軒の床屋のリニューアルから10年ほど経ってから、肉屋の2代目がリニューアルして跡を継いだ。表参道か成城のカフェのようなガラス張りのクールなお店になり、かなりの繁盛振りをみせていた。肉屋からミートギャラリーになったのである。

そこを仮に板門店としよう。

ところがしばらくして板門店は閉店してしまった。理由は分からない。

それから10年ほどは2代目の趣味のバイクガレージになっていた。シックなバイクばかりだったし、クールな建物と相まってまるでバイクギャラリーのようだった。聞くところによると板門店の2代目は、しばらくの間ホテルのワインソムリエとして道を歩み、今から10年ほど前に「一晩に一組だけのワインレストラン」としてオープンした。

 

二軒の床屋に話をもどそう。

その二軒には北朝鮮と韓国のように大きな違いがある。二軒の床屋を仮に北朝鮮と韓国としよう。いやそんなことしなくても、簡単に分別できる。

 

意識高い床屋と意識低い床屋だ。

 

意識高い床屋は3階建てのピンク色のビルで、はるか彼方からその存在をアピールしている。床屋、メンズエステと総合理容業とし、多人数で組織的に営業している。

 

一方の意識低い床屋は、40年の時を経てアンバー色になったクリア樹脂製のオーニングには「へ -サロン****」と立体フォントで表示がある。「ア」はとうの昔に欠落し今や日焼けの痕すら消えかかっている。お店のショーウィンドには日焼けしたセピア色のポスターと、まるで盛業中なのをカモフラージュしているかのようである。サインポールが無ければその存在は無になる。経営は僕の親ほど年齢のご夫婦二人で切り盛りされている。ちなみにかつてはヒデとヒデとロザンナのような美男美女で、今だにその片鱗はある。おまえに毒舌であり、それが強みでもあり弱みでもあったと思う。

そう、僕が子供のころから通っていたのはこのへーサロンなのである。意識高い床屋に比べるとアットホームなヘーサロン。

ちなみにアットホームなのと口うるさいのは表裏一体であり、グサグサ刺さることを平気で言うデリカシーの無さに耐えながらも、起業するまではつまり20年ほど前までは通っていた。

商売というものは面白いもんで、一見意識高い床屋の方が景気も良さそうに見えて儲かってそうだが、おそらく経営者の個人所得としては大差ないと思う。

 

基本的に床屋さんは技術職で仕入れも少ないから利益率は良好だときく。

 

意識高い床屋】

売り上げ(客単価、客数) 高い

イニシャルコスト 高い

ランニングコスト 高い

 地代家賃水道高熱費、店舗維持費用、人件費等々ハコが大きくなるど加速度的に経費がかかる

 

【ヘーサロン】

売り上げ(客単価、客数)意識高い床屋スタッフの平均売り上げ単価と同等以上

 ただ加齢とともに売り上げは落ちていくが、それは看板の「ア」が欠落していくせいではなく、個人店は店主とともにお客も年を重ねていくので、基本的には客数は漸減していく。

イニシャルコスト 最低限

ランニングコスト 最低限 

 

そして現代は中途半端な規模のお店ほど経費に食われるばかりで儲からない。父ちゃん母ちゃん経営のアナログ経営の方が強みが見いだせる時代。

 

僕は起業して22年目になる。

一巡して感じたのはアナログ経営の強み。

究極のアナログ経営は、広告宣伝費無しの口コミのみの顧客確保。

起業してしばらくして活字媒体の広告宣伝に加えて、インターネットと普及とともにネットでも展開したのち、業界の衰退とリーマンショックでかなり規模を縮小した。

なかなかにタフな体験でもあったけど、学んだのは結局はアナログだということ。特に自分の場合。

インターネットでの集客はアナログ客(来店紹介など)に比べると極端に成約率が下がりロスばかり増えた。

アナログ客は成約率は高く、しかも売り上げの多くは1割ぐらいの太客に支えられているという真理がある。

僕の業界は売り上げが増えれば増えるほど利益率が下がり薄利になる。またネット販売、近年ではamazonがファットマンとリトルボーイとなり、個人店では単に商品を売るというのは組織には太刀打ちできなくなった。現在では技術料の売り上げがメインである。

結果、売り上げは最盛期の1/4になったが、残るお金は今の方が多いのが実にアナログテッィクである。

今は僕のワークショップもヘーサロン状態で、敷居は高いし、なんで潰れないのか不思議なお店である。おそらく。

 

最終的には浜名湖の湖畔で謎のお店になるのが努力目標予定。

 

このあたり板門店のワインソムリエさんとも一度ぜひ話をしてみたいもんだ。