ちょっと早いけど夏の終わりに 映画「稲村ジェーン」
好きな映画のひとつにサザンオールスターズ桑田佳祐の「稲村ジェーン」がある。
映画自体は酷評されたがもっともな話だと思う。
ストーリーは稚拙で取り立てて説明するほどでもない。ラストはもうヤケクソなのかと思ったくらい。主演の新人男優加勢大周の演技はぶっきらぼうだったし、桑田自身も途中で飽きちゃったような感じもする。桑田佳祐の友達つながりの出演有名俳優も、なんだか出来そこないのおせち料理のようだった。
ただ桑田自身の音楽は素晴らしく、切り取った映像も悪くなく、編集して各サウンドトラックのPVとして観れば悪くない気はした。
「真夏の果実」「希望の轍」などのサウンドトラックからわかるように、桑田自身が描きたかったであろう、二度とこない若き日の陽炎のようなひと夏の情景は、ちぐはぐではあったけど十分に伝わってきた。
仏頂面で主演の加勢大周が海辺で叫ぶ。
「俺たち他人だからよー!かんけーねーからよ!」
ベタベタした馴れ合いを拒絶する若き日のデタッチメント。ほんとは気になってさみしてくて仕方がないのに。
自分の中では、この人は何やっても台無しにすると評価が高い伊武雅刀は安定の演技だったけど、可憐さの裏にある女の強さを演じる清水美砂はとても良かった。
若者の特権として日々を無益に過ごすことができる。己の無力さに目を背け、あふれ出る情念に悶々としながらも、無益に日々が過ぎていく。肝心なところでは逃げ出してしまった。
土用波とともに夏の喧騒も終わり遠い南の海では台風が身支度を始めているという。長いと思っていただるい夏も終わりだ。
このセリフだけは人々の記憶に残っているのではないだろうか。
あつかったけど 短かったよね 夏