サバンナの掟
バイクの全日本ロードレースで筑波サーキットへ行ったときの話。
金曜の夜で下妻の大浴場は盛況だった。洗い場で後ろのおっちゃんが、連れが来たようで大きな声で話し始めた。それがもうバリバリの北関東弁で、話もボケててもう笑いの坩堝に引きはずり込まれてしまった。北関東弁の独特な言い回しや抑揚の無いアクセントとリズムが僕は大好きだ。
広島ナンバーのバズがあったっぺさ(それEのバスだ)
あじたレース場で大会があるんだっぺ。
でもな...雨だよ雨 あーめ
ぎをづけたほうがいいよ
すべっから
(うん気をつけるよ。先月のもてぎの雨で転んだばっかだからね)
10代の終わりごろに初めて筑波サーキットに行き様々な洗礼をうけた。
北関東弁もそう。関東地方は標準語だとばかり思っていたから、ずいぶん東北出身の奴が多いなと思った。北関東弁は東北弁に似ている。
そのうちに東北出身者は関東に来ると標準語を話すことに気がつき、その偽東北弁は茨城とか群馬、栃木の独特な方言だと分かった。
そのころの筑波サーキットは箱庭のような敷地の中に、空前のレースブームで野心家達で溢れかえっていた。ひどいブラック社会で、遅い者に人権は無く、掟を破ったものには厳しいペナルティがあった。
走れなくなる、それは死刑に等しい。
悪質なルール違反者は、コントロールタワー1階に呼び出しを食らい、ライセンスカードにポンチ穴を開けられる。逆切れなど歯向かおうもんなら、ライセンスをハサミで真っ二つにされる。
怪我と弁当は自分持ち。文句があるならママに言え。
それがその世界の絶対の掟だった。
今はライセンスホルダーは立派なお客様つまり消費者となり、尊重され比較的丁重に扱われる。逆切れしてもきちんと相手をしてくれる。
ゆえにマナー意識や危機管理能力の低いことによる、理不尽な交通事故のような悲惨な事故が起きるようになった。高速道路を走るのとはわけが違う。
サバンナがサファリパークになってしまったのだ。
世界でも有数のチャレンジングな(つまり危険な)オールドコースである鈴鹿サーキットの民間人向けのバイク走行会では、先導者付きの走行しかできない。サバンナの掟を知らない者を解き放つわけにはいかないのだ。
普段の生活も同じですね。
ぎをづけたほうがいいよ、すべっから。