Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

ミニマリスト飲み

客商売をしている関係で飲みに行く機会はまあまある。

接待営業でお客さんを懐柔するような、そんな戦略的なものじゃないけど、僕自身に興味を持った人との親睦を深めるためで、割と仕事につながる場合が多い。

基本はお客さんを気持ちよく飲ませるために、お店選びは結構気を使う。一か八かで飛び込みで入るのはリスキーだから、安パイの手持ちのお店からその人に合わせてお店選びをする。人数が多いときは、トイレに行く振りして次の店次の店と予め席を確保したり、事前に清算したりしておく。次のお店選びや支払いでもたもたするのはスマートじゃない。もちろんサラリーマンのお客さんが、「ここはカードでまとめて払いますので割り勘分はあとで徴収します作戦」に出てもスマートに従う。ポイント稼ぎに使おうと、あとで経費でガッポリしようと僕には関係の無い話。

行きつけていないお店での、早めの清算はお店側のミスとかぼったくりを未然に防ぐ役割もある。幹事的役割の場合も多いから、ほんとは飲まなきゃいいし、演技でもできたらいいんだけど、まあ飲んじゃう。でも暗算で概算できるぐらいの余地は残しておく。僕が多く払うにしろ、割り勘にしろ割高に感じさせるのは無礼になる。

小さい紙に総額だけ書いて、領収書は直書きのお店もいまだに結構ある。そこでおかしいな、と感じたら明細を求めるなり、口頭で確認する。もうすっかり時代が変わって街の流れも変わり、今では使っていないけど、昔は定店のように行っていた居酒屋があった。そこは少人数で行くにはいいんだけど、大勢で行くと必ずやられちゃう。大勢だと必ずBBAが担当で、割り勘するとやられちゃってる。明細はないけど直感でわかる。あーまたやられちゃったな、なんてそこは済ませていたけど。

 

そんなわけで、昨晩久しぶりのお客さんと焼き鳥屋に行ってきた。焼き鳥は好きだけど飲みにいくとなると、オーダーが細かくなるから面倒くさいんだけど、お客さんの起っての希望なので、ちょっとアウェイな心持ちで行ってきた。

 

そそそろ締めに入りつつある頃、早めに席を立って清算をした。一時間弱なのに結構高い。暗算で概算していたし、やられちゃったかな、と思いながら確認をしてみた。

「最初にオーダーした○○3と、最後にオーダーした○○2は出てないと思うので確認してもらえますか。」

やり直してもらった。

「最初の○○も入っていました、最後の○○は入っていません。すみません」

結果まあ許せる程度の金額になった。やれやれ。

 

その後ひとりになって、遠慮していたので小腹が空いていたのである中華へ入った。全国チェーンの駅前のお店でいつ行っても入れないくらい繁盛しているが、昨晩は幕間の切れ目のようにするっとカウンター席に着くことができた。5年越しくらいでやっと。

ラーメンだけのつもりだった。

ところがラーメンは終わりましたと。おいおい中華でラーメン売り切れは犯罪だろ。帰りたくなったけど仕方ない。台湾ラーメンで妥協しよう。

でも初志貫徹で帰るべきだった。オヤジが指突っ込む勢いで出してきた台湾ラーメンは、アイデンティティである韮がパラパラと振ってある程度。しかも100円ローソンで売っているような(悪い意味ではない需要の違いだ)、気の小さそうな気の毒な韮。そして麺が伸びてダマになっている。もやしは冷蔵庫の味がする。

一口食べて帰ろうと思った。

でも頑張って完食した。スープの味は悪くない。料理人がほんの少し真面目にやればいいだけの話である。安い韮はもっと増やしてもそうロスにはなるまい。もやしだってそうだ。麺はもうね...忘れるしかない。ぐっと我慢してお店を出た。僕はここにミスマッチなだけなんだ。きっとあのミニマリストのせいなんだ。

 

昨晩はローカルの渥美線を利用して、最寄駅から豊橋駅まで行った。

歩いて最寄り駅に行くとタクシーが横付けしていた。そこの駅は4車線の交通量の多い国道に線路が沿っていて、国道から踏み切りを渡ると大学の正門であり駅だ。駅のホームの下が線路とフェンスを挟んで国道になる。駐車スペースは全く無く、踏み切りに少し乗り入れて、4点焚いてタクシーは路駐していた。

 

ホームへ上がって確認すると目指す上り電車はちょうど行っちゃったところだ。いつものことだ。すぐに下り電車が着いて、大勢の人が下りてくる。その中でキャリーを引きながら颯爽と歩いてくるスーツ姿の女性がいた。歩き姿や雰囲気もクールで、この糞田舎駅では引き立って見える。人並みが通り過ぎ視界が開けると、ホームから見下ろす国道のタクシーに彼女が乗ろうとしているのが見えた。キャリーバッグを下りてきた運転手が乗せている。

電車が着く時間に合わせてタクシーを待たせて(きっと時間にサバを読んで)、できる女の用意周到さを見た気がした。

でもまて。キロポストを見ると豊橋駅から2キロ600か400。それにキロポストを見るまでもなく、ここはタクシーで始発の豊橋駅から1000円するかしないか。電車運賃は140円で差額は800円程度。800円節約するのにかかったコストと失った時間を考えるまでもなく、豊橋駅からのタクシーを選択しないのができる女なのか。

ひょっとしたら電車を待っている間に予定が変わったのかもしれない。

豊橋駅をタクシー乗り場で並ぶよりロスが少ないのかもしれない。でも豊橋はタクシーの需要より供給の方が多い街だ。

ひょっとして彼女はミニマリストで、これがミニマリストなりの選択なのか。

 

昨晩のバッドラックは、上り電車を待ちながら頭の中でミニマリストをネタにしていた罰に違いない。