ARROW 2
だが僕は結果として彼女を救うことはできなかった。
彼女を救うのは全てを包み込める男しかない。でも難しいかもしれない。彼女はずっとひとりで生きていった方がいいのかもしれない。
そして数年がたち、僕はいつものように海辺のランニングコースを走っていた。
夏の暑さを思い、冬の寒さを思いながら走る。
走りながら考える事はあまりパッとしない。夜に抱いた妄想は翌朝顔と一緒に洗い流したほうがいいのに似ている。
そして酸欠の頭で走りながら考えることは夢のようにボンヤリとしていて、夢のように直ぐ忘れてしまう。
海辺を彷徨う夢をよく見る。それは海辺をランニングするのに似ている
週に一回を目標に海辺の道を15-20km走る。
走り始めたころはそれこそ1kmがやっと。でも毎日走った。少しずつ少しずつ遠くへ速く。どんどんタイムも速くなり週に一度は10km走るようになった。そこまで半年ちょっとかかった。夏の暑さはクリアしたけど、むかえた最初の冬の寒さはどうにも辛かった。仕事のように走り始めが嫌で嫌でしょうがない。仕事のようにしばらくすると、身体がなれて楽に成るのは分っているのに。
潮が引いているときは海岸も走る。貝殻ダらけの砂浜をザクザク走り、ゴロゴロとした石だらけの浜を注意深く走り、時々現われる磯は注意深く走る。
夏の始まりの希望と光に満ちたある日のこと。
夏の暑さを考え、急に底が抜けるような熱中症の心配をしながら走っていた。今日は気をつけたほうがいい。まだ身体が暑さに慣れていないこの時期。
いつものように折り返してしばらく走ると、選ばれた民のためのリゾートホテルが見えてくる。昭和初期の陛下降臨の石碑のために維持されている、白浜の松林がホテルの前に続いている。ガラス張りのレストランの前の白浜が見えてきた。裸足でも怪我をしないように、そこは特に念入りに配慮の行き届いた整備がされている。
ぽつんと寂しげに、平日のビーチパラソルがひとつ。
こっちへ向ってボールを追って駆け出してきた子供がいる。そのビニール製のボールを、ノートラップで蹴り返した。
ボールを蹴り返す前に子供を観察し、瞬時に判断して最適なボールを出す。
色白で茶系のさらさらの髪、クリっとした目にちょっと上を向いた鼻の、やせぽっちのもやし君。