Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

カルピスのCMは嘘つかない

 暴力的な夏の日差しのせいで、校舎の渡り廊下の下に入ると真っ暗な闇となり何も見えなくなった。しばしの眩みから気がつくともう夏休みの誰もいないはずの飲み場の奥に誰かいる。ジャージ姿の女子がしゃくりあげるように泣いていた。上級生のたったひとりだけの野球部のマネージャーだ。自分が属していた弓道部と野球部の部室は長屋続きで弓道場に隣接していたから、野球部のほとんどが知っているメンバーだ。
 
 そうか今日の夏の大会の予選で負けたんだった。それにしても彼女はひどく取り乱している。
 
 県立の進学校だから野球に全てを捧げるような覚悟でやる部活ではない。簡単に言うと弱い。だから強豪高と対戦した日には悲惨なコールドゲームとなることもあった。そんな野球部でマネージャーとして献身的に働く彼女の姿はしばしば見かけていたが、ぱっとしない野球部のために、なぜそんなにひとりで頑張れるのか、自分にはその動機付けが全く分らなかった。
 
 でもその取り乱した彼女を見て自分の間違いや浅はかさに気がついた。スポーツは勝つ事や強い事だけが全てではない。甲子園に行くだけが全てではない。どれだけ強い思いを持ち自分を捧げ打ち込む事ができるか?強くなるためには技術だけではなくて強い心を持つ事が先ず必要だ。

 彼女はきっとメンバーと同行している時には気丈に振舞っていたかもしれない。だが押さえ切れない感情がこみ上げてきて人気の無い暗闇に飛び込んで感情を爆発させたに違いない。
彼女にとってそれが全てだった。そしてそれが終わった。
 
 この季節がくるとそんなことを毎年思い出す。