Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

珈琲の味

 鈴の音を聞きながらドアを開けると、カウンターの奥のステレオタイプのお山の大将がよそ者を一瞥した。

 30年ぶりに老舗の喫茶店を訪れた。駅前アーケードビルの2階にどちらかというとひっそりと存在している。アーケードの商店は30年も経つとすっかり入れ代わり、面影を残しているのはこの珈琲店、昔はやったスタイルのカフェバー、玉突き屋だけだ。

 その珈琲店はドアを開けると左手に奥までカウンター。右手にはボックス席でインテリアは黒をベースとしている。炭焼き珈琲を売りとして開店し、黒は真っ黒いコーヒー豆と炭焼きのイメージなのだろう。何も変わっていない。おそらく。だが自分が変わってしまったようだ。どうにも居心地が悪い。しかもボックス席の椅子と机の高さの落差がありすぎるのも居心地の悪さを助長している。

 珈琲専門店を謳っているが出涸らしのアメリカンのようなコーヒーの味。お冷は水道水のような味。常連客と店の会話は地に足が着いていないような薄っぺらい話題。村社会のルールに沿った井戸端会議とでもいうのか。長老のありがたい話に耳を傾けたり、ママに甘えたりするのには最高の場所だろう。

 30年の月日によって、僕は既にそこにはふさわしくない人間になっていたようだ。

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