Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

冬の道場

 「立てい!A!」
 それは違うよ…と呟いた言葉に模範演技をした教師が激昂した。高校での柔道の授業。引き摺り出されたAはボロ雑巾のように何度も投げられ叩きつけられた。見せしめの私刑。動機はプライドを傷付けられた事によるヒステリー衝動だ。まあそれはいい。舐めた事をした事による罰だ。

 問題は我々が誰一人として、理性を失った教師を止められなかったことだ。Aは次第に受身が甘くなっていったから、下手すれば殺されかれない。我々はたた教師が理性を取り戻すのを怯えながら待つだけだったような気がする。幸いAは無事で懐かしくも苦い思い出になっているのだが。
 暴力教師は他にも数名、そして中学にも同様なのがいた。理性を失い行き過ぎた体罰は暴行でしかない蛮行だが、抑止効果になっていたのは事実で、ギリギリのバランスを保っていたのだろう。是非はともかくとしてそういう時代だったし、現在とは全く別の話で今の教育ではあり得ないと思う…
だが思うのは…あの時Aをボロボロにしていく教師を止めるべきだったのか?止められたのか?今朝の雪景色と冷え込みでそんな事を思い出した。柔道場はひどく寒かった。