Toujours beaucoup

いつまでもたくさん

秘密のおじさん

病床の母がぽつりと言った。

「あなた秘密のおじさんにそっくりになってきたわね。そんな感じだったわよ」

そういうものなのかな。隔世というか飛び石遺伝みたいなもんかな。

好きなおじさんで憧れている面もあったから、ゴールに導かれたような気もして嬉しくもあった。

 

「秘密のおじさん」とは、広島出身の母の叔父つまり広島の祖母の弟。

広島の焼け残った区画の迷路のような路地を抜けた雑居住宅の奥に隠れ住むように住んでいた。

だから「秘密のおじさん」と僕は呼んでいて、「西口のおじさん」というのが広島の親族の間での正しい呼称だ。

「秘密のおじさん」は学者肌というか、本ばかり読んでいる一風変わったひとで、僕の中のビジュアルのイメージはこれ。

 

もっともこのイメージは勝手に作り上げられたもので、本当のところは記憶にはない。

僕が高校に入って物理を学びだし、相対性理論宇宙速度に鼻の穴を膨らましだしたころ、ある物理の参考書にガモフが紹介されていた。

 

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これは読まずにはいられないではないか。

この物理の参考書はいまだに携行していて、物理の法則を思い起こし考慮する必要がある時には頁を開いている。

 

そしてどのような経緯だったのかは失念してしまったが、おかしなことに興味を持ちだした僕におじさんが喜んだらしく、ガモフの「不思議の国のトムキンス」を送ってくれた。

それはまさに手垢のついた古本で、それがまた嬉しかった記憶がある。その後も「秘密のおじさん」は亡くなるまで何かと僕に目にかけてくれた。

 

ガモフについては下記を参照にしていただきたい。

768夜『不思議の国のトムキンス』ジョージ・ガモフ|松岡正剛の千夜千冊

平凡な銀行員のトムキンスが不思議な世界で繰り広げる奇想天外な冒険を通して、相対性理論への入り口へ導いた本で、1940年の原書刊行以来、各国語に翻訳された.著者のジョージ・ガモフはビッグバン理論の提唱者でもある。一般読者向けにやさしくおもしろい科学読み物を数多く著したことでも有名である。

 

 

そんな隠された探究者のような「秘密のおじさん」に僕が似てきたと母に言われて、嬉しくもあったのだが少し気になっていた。

死期せまる母がなぜ突然そんなことを僕に言ったのだろうか。僕に叔父の面影を見たのは、無意識のうちの隠されたメッセージなのだろうか。

僕の下には妹と弟がいて、父や母の面影を残していて一見して親子だと分かる。僕は下の兄弟二人とは全く似ていなくて、というか異質であり、幼少のころから母に似ているといわれ続けてきたが、父に似ているといわれたことない。

 

母はその後合併症の影響で緊急オペを経たあと奇跡的な回復をした。とはいっても放射線治療をしていた癌が完治したわけではなく自宅療養するだけだ。

母は数日前に退院して実家に送り届けてきた。不思議なもので家に帰ると母は元気になり、よれよれしながら家の中をパトロールして、コンビニおでんを美味い美味いと完食し汁まで飲み干した。

 

 その日は半日ほど実家で過ごし、久々に幼少の頃の写真を見たが、まるでよその子が紛れ込んで写っているように僕は異質であった。

 

母は被爆者ということもあり放射線治療に強い懸念を示し、もう思い残すこともないからオペも拒否していたが、なんとかそれらをクリアした。ひょっとしたらそれが母のレースの最終ラップだったのかもしれない。

最終ラップをふらふらになりながら回り、チェッカーフラッグを受けた母は家に戻ることができたんだな。

そしてこれからが完走を祝福されるウイニングラップであればいい。

 

「秘密のおじさん」の秘密は秘密のままでいい。

 

 

穏やかな天気の中詰んだ男が走る

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 2018年大みそかは年越しそばをちゃちゃっと作って食べて

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 足りないからかぼちゃを素揚げにして塩振って冷蔵庫の余った野菜でサンドイッチにして

 

明けて2019年元旦は最高の天気

いそいそと浜名湖に繰り出して久々の湖畔ジョギング

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ここのこじんまりとした入り江は、いつどんな風向きでもどんな天気でも別世界のように凪いでいる。

そこにある漁師小屋が管理物件になっている。売りなのか?欲しいぞ。

いつも繋いである漁船がないので主を失ったのか
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そして毎年楽しみにしている浜名湖越しの富士。

空気の澄んだ冬の朝にしか見えない。今日は絶対いけるぞ。


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緑のトンネルを抜けると見えるぞ
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うむ。素晴らしい。

昨夏の台風の爪痕がまだまだ残っている。


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富士が一番よく見える半島の先から
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これは良いカメラが欲しくなるね。肉眼ではもっとくっきりと見える。

 


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今年は暖冬で海水水温が高いせいか透明度が低く藻がありこちに散見される


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無用の者立入るべからず。首狩り族の警告のように。

 

そしてガンで入院している母親の病院から呼び出し
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セシル号でがらんとした豊橋駅前大通りを抜けていくと、珍しいクラシックオープンカーが。

品川ナンバーでアフロっぽいヘアスタイルの二人組が乗っている。奥田民夫2人組だ。

今どきはやりのヘアスタイルは、ポマードでハードにセットした5、60年代風の七三スタイルに、車はセダン、SUV、オープンカー問わず高級志向だから、それを意に介さないスタイルが印象的だった。


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母親は容体が急変し緊急オペになった
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容体についてはもうなるようになるしかない、どうあっても誠実に受け止めるしかないと思ってる。

明日晴れたらいいな、そんな風に。

 


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それから病院で30年ぶりに元カノに会った。まさに邂逅だ。

アスリートらしく今でもタフなスポーツをやっているらしく、歳を感じさせない身のこなしとスタイル。

なんというか、30年前より進化している。すごいな、と思った。

首元のゆったりとしたセーターからきれいな背中が見えた。

 

でも今はあまりにもタイミングが悪い。 

突然時計の針を戻されたようで心がざわざわした。

 

これを書いている今日は1/4。

母親のオペは想定内で終了し意識も戻りICUに居る。

 

 

 

 

 

おやすみなさい

うちのマンションのエレベーターで時々一緒になるアルゼンチン人女性がいる。

いや、勝手に僕がアルゼンチン人だと思っているだけで本当は知らない。

寒い地方の海のそばに住んでいそうな少し影のあるきれいな人だ。

 

知らない女性と二人きりのエレベーターは気をつかう。

最初は僕が先に乗っていてその人が後から乗ってきた。

 

 

「こんばんは」と僕が言う。不自然にならない程度にニッコリとして。

その人もニッコリと笑う。

「何階?」

「ゴウカイデス、アリガト」

その人が5階で下りる。僕は6階だ。

 

「おやすみなさい」と僕が言う。

その人は振り返りながらまたニッコリと笑う。

 

最初の緊張感は解けて今はむしろホッとする20秒間だ。

今は先に入った方がフロアボタンを押す。5階と6階だ。

 

 

おやすみなさい

遠くどこかを思わせる香水の匂いをほのかに残しながら、その人は閉まるドアの向こうに消えていく。

 

この距離感は好き。

The Long Goodbye

東三河、昭和カフェ探訪というインターネット記事から、郷愁すら感じさせてくれた愛知県蒲郡市の喫茶「ヒル・トップ」から、大好きな「喫茶山小屋」を思い出しました。

愛知県豊橋市東部の赤岩寺参道から道を逸れた、里山の中腹にひっそりと佇む茶店

建物はちょっと昭和のブラックな面影を残す不思議な構造です。仕切りのようなガラスのショーケースで区切られた客席の一角には開かずの謎の扉があります。

山の麓からかすかに見える建物を伺うと、その謎の扉の先には階段通路が続いていて、上った先には連棟の旅館風の建物が。

何というか昭和のエッジの情景が目に浮かびます。

それはともかく、喫茶山小屋を訪れると学生運動時代の村上春樹のような風貌のマスターと、「傷だらけの天使」の岸田今日子を太らせたような、母親と思しき妙齢の女性がネコを傍らに時を眺めていました。

初めて訪れたのはかれこれ30年以上前の話です。

ときわ通りの専門店より好きなこくのある炭焼珈琲と、とても美味しいサンドウィッチが大好きでした。

良い喫茶店というものは、うまいサンドウィッチを出すものです。

家庭料理のような味わいのメニューも趣深いものでした。

 

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食べログから転載した画像ですが、まさにこれがその素晴らしい「かくあるべきサンドウィッチ」です。

食べログ情報では店舗の現在の運営状況は確認できません

ヒル・トップ」も然り、どうやら残された時間は少ないようです。

 

2011年には盛業中のようです

 

2018年10月29日

「山小屋」を訪れてみました。

エントランスは廃屋のような荒れ具合・・・やばい

ああ

ドアのガラスには縦書きで「臨時休業」とだけ書いた短冊がセロテープで貼ってあった。短冊もセロテープも風化し随分と時が経ったことを示している。

 

お終いだ

 

あのコクのあるコーヒーとサンドウィッチがもう

 

To say Good bye is to die a little.

Raymond Chandler -The Long Goodbye ー

 

 

 

ある晴れた秋の日にダコタさんに会いに行ってきた

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 今日はいい天気になりそうだ

 

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 秋の抜けるような青空とさわやかな風

 

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 選んで旧道を進んで行く

 

 

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 奥浜名湖寸座の天竜浜名湖鉄道道路橋

 

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 ジャポネスクな村落をぬけ

 

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 浜名湖舘山寺。温泉旅館群と遊園地がある。

 

しばらく走り映画『飛べ!ダコタ』で使用されたダコタを見に行ってきた。

1930年代に産まれた傑作旅客機DC-3を軍事転用したC-47のイギリス向け機体で通称ダコタ-Dakota-と呼ばれていて、終戦直後に悪天候と故障で佐渡島に不時着したシスターアンという個体を演じた機体。

 

潮風で腐食も酷くここ最近の台風でもうボロボロ。

航空機用アルミ合金は耐食性に乏しく潮風の屋外保管ではどうだろうあと5年と持たないのでは。

この機体は遠くタイから日本に渡ってきて修復後シスターアンを演じ、余命を浜名湖の畔で静かなる死を迎えつつある。

 

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 手を触れるのはマナー違反である。

でも、しばらく傍に佇み立ち去るときに、さよならのかわりにそっと尾部に触れてみた。

零戦と同じだ。薄肉ジュラルミン独特の硬い紙細工のような手触り。ダコタもかなり薄い外板構造なんだね。

 

so long dakota

 

気弱な支配者

組体操で僕はいつも一番上の役だった。

カーストでいう頂点の役割。

身体が小さくて軽くてそこそこ動けたから。理由はそれだけ。

 

気持ち良かったかって?

気分は最悪だよ。

怖かったから?

そりゃ怖いさ、でもそれが理由じゃない。

まずは強制された挑戦というのは最悪だった。

 

いつもピラミッドを支える底辺が気楽そうで羨ましかった。崩れて潰されたって知れてるだろ。こっちは奈落の底へ落ちるリスクに晒されていた。滅多にないのだけど実際に崩壊して人の土石流に飲みこまれると体操服もぐしゃぐしゃ。靴も脱げてしまう。

 

一番嫌だったのは斜辺を登って行く時だよ。

クラスメイトの背中を慎重に一段づつ登っていく。人間の階段だからね。ぐんにゃりとした生身の人間の背中を登っていくのはとても嫌なものだ。

選ばれた強い人間ばかりのカーストならいい。

ところがこのカーストの中には自分が軽くなるように体重をかけるやつもいる。ブレイクした瞬間に人を踏みつけようと企んでいるやつもいる。そして弱い人間もいる。背中が体力の限界の恐怖に竦んでいるのはすぐに分かる。

○○くんごめんね。できるだけうまくやるよ、少しの間だけがまんしてね。僕だって好きでこんな事しているわけじゃないんだ。

それからおまえら、このカーストを生かすも殺すも僕次第なんだ。

わざとぶっ壊すこともできるんだ。でも○○くんのためにしないだけなんだ。

おまえら屑はだまって底辺を支えていろ。

組体操の間だけは僕が支配者だ。

 

あなたが憎くはないけれど - 傘をひらいて、空を

このブログを読んで思いだしました

 

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welcome to slow air

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休日やっと晴れた秋の午後にセシルさんとドライブしてきました。

セシルさんとはプジョーの206CCのこと。

Bonjour Tristesse - Toujours beaucoup


人生初のオープンカーなんですが、こんに気持ちの良い乗り物だとは。
 
心地良い風と空の明るさからくる格別な開放感。

バイクだとヘルメットがあるのでこんな開放感は得られないし、ノーヘルだと逆に過度な空気感。

ハイクって風を感じてとかポジティブに表現されるけど、実際には風ではなく風圧でストレスでしかないし暑かったり寒かったり、おまけに危ない。

でもそれを克服したり挑戦したことによる達成感がバイクの魅力なんだけど。
あとはスピードと競争。

ちょっとハードに感じていた足回りも、ワインディングロードに入ってペースを上げ荷重がかかると、グイグイ曲がって楽しめる。

浜名湖畔のいつもはランニングしているルートを、また異なる目線で楽しめて良い休日でした。

 

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